CASES 事例紹介
脱炭素DX
スマートシティエキスポ出展レポート
■カーボンニュートラル時代のスマートシティのあり方
2011年よりバルセロナにて開催されている、スマートシティに関する世界最大級のイベント「スマートシティエキスポ ワールドコングレス(展示会・国際会議)」が開催されました。
2021年・2022年はコロナ禍の影響でオンラインでの開催となっていましたが、今年は参加者を入れた会場でのにてリアル開催され、ISIDは、スマートシティ・インスティテュート・ジャパン(SCI-Japan)がデジタル庁の後援のもと初めて開設した日本パビリオンにて、ブース展示ならびにシアターでの講演を行いました。
今回、地域の脱炭素化をデジタルツインでサポートするサービスの紹介を行った講演内容を、欧州を中心にしたカーボンニュートラルシティへの取り組み動向も含めご紹介します。
なお、前回リアルメイン開催だった2019年の同エキスポについても視察を行い、「バルセロナ視察から構想するスマートシティのあり方」として報告を行いました。併せてご覧ください。
■バルセロナの魅力は住民参加型地域づくり
スマートシティエキスポ ワールドコングレスが開催されたバルセロナは、上空から見ると建物の高さが均一なブロックが碁盤の目に整然と並美、戦略的な都市計画のもと整備されていることで知られています。また、サグラダ・ファミリアをはじめとした多くの世界遺産を有していることから、文化的アイデンティティも根付いていることがうかがえます。しかしながら、20世紀半ばには多くの地方の街と同様、産業の衰退、人口減少、そして独立問題などさまざまな社会問題を抱えていました。
1970年代後半以降、都市の活力を再生する取り組みが始まった際、社会インフラの多くを住民自らが整備、2019年のレポートでも紹介した住民参加型合意形成プラットフォーム Decidim (ソリューションのリンク)が生まれる下地があったようです。最近では、データとデジタル技術を活用した持続可能な都市プラットフォームづくり(スマートシティ)が世界的に認知され、スタートアップ企業の集積地として次々と新しいビジネスが生まれています。
社会課題に対して、自己のアイデンティティを大事にするために住民自らが行動を起こし、協働するためのさまざまな仕組み・仕掛けを戦略的に政策に反映していくと言うのが、バルセロナだけではなく欧州の魅力だと改めて実感させられました。今回、ISIDがブースで紹介したサービスも、行政・民間・住民が連携して脱炭素型の地域づくりに取り込むための北欧発のサービスです。
■ClimateOSは、官民連携による脱炭素型の地域づくりのための仕掛け
ISIDは、11月に静岡市が進める「脱炭素先行地域づくり事業」に参画、実行計画の実効性を高めるため、1) CO2排出量の現況推計、2) 地域全体の将来のCO2排出削減施策シミュレーション、3) 包括的な気候投資計画の策定、そして 4) デジタルロードマップによる地域企業・住民への分かりやすい情報開示の仕組みの整備に取り組んでいます。この仕組みには、スウェーデンのCimateView社が開発したクラウドサービスClimateOSを日本で初めて採用、併せて同サービスの国内提供を開始しました。
参考:ISID、静岡市の脱炭素先行地域づくり事業に参画~CO2削減効果をデジタルツインでシミュレーションする「ClimateOS」を活用~
実行計画の実効性を高めるには、「移行シナリオ意思決定」、「投資対効果訴求による資金調達」、そして「丁寧な情報発信」において、地域の制約条件を考慮した削減施策、効果、そしてコストのWhat-If分析にデータを積極的に活用すること、そして実行計画に基づく行動変容の促進においてビジュアルを活用したわかりやすい情報発信が欠かせません。今回、実行計画を策定する主な工程(ゴール設定、戦略、そして実行)のそれぞれの場面で、どのようにClimateOSを活用してこれらを実現するか紹介しました。(工程と対応するモジュールの一覧は下図になります。)
ここでは、ブース展示及びシアターでの発表内容として、検討課題のそれぞれを軸にポイントをご紹介します。
施策によるCO2削減効果を将来に渡り時系列で積み上げるには、生活様式の変化を始めとした活動の変化、エネルギー資源別の使用量の変化、そして排出量の削減量を時系列で集計する必要がありますが、スプレッドシートでは非常に困難を伴います。ClimateOSを利用すると、施策の導入指標をさまざまに組み合わせると削減効果がどうなるか、グラフィカルなWhat-If分析によりリアルタイムシミュレーションでき、煩雑な計算から解放されます。
■移行シナリオ意思決定
施策によるCO2削減効果を将来に渡り時系列で積み上げるには、生活様式の変化を始めとした活動の変化、エネルギー資源別の使用量の変化、そして排出量の削減量を時系列で集計する必要がありますが、スプレッドシートでは非常に困難を伴います。ClimateOSを利用すると、施策の導入指標をさまざまに組み合わせると削減効果がどうなるか、グラフィカルなWhat-If分析によりリアルタイムシミュレーションでき、煩雑な計算から解放されます。
例えば、車利用による通勤(排出量の多い活動)を、公共交通機関、自転車、電気自動車、さらにはリモートワーク(排出量の少ない活動)へ移行すると、CO2削減効果がどうなるかを考えます。
ClimateOSでは、活動量と資源別エネルギー使用量・排出量の変化を「活動インベントリ」と呼ぶデータモデルで、排出量の多い活動から少ない活動への移行施策を「移行エレメント」と呼ぶオブジェクトで定義することで、時系列で活動から排出までのデータツインモデルを構築できます。これにより、車通勤をより排出量の少ない通勤手段にどれだけ移行するか(導入指標)をグラフの各バーをスライドするだけで、活動量と資源別エネルギー使用量・排出量の変化をリアルタイムで計算、右側のグラフで排出削減効果を確認できます。
また、ClimateOSでは個々の移行シナリオを実現するための政策、措置、そして取り組み(以下、アクションと呼ぶ)を紐づけて登録できます。地域で実際に主体となる関係事業者とデジタルツインモデルを共有することで、それらのアクションの立案や導入指標を相談しながら実現可能なシナリオとして意思決定することができます。
■投資対効果訴求による資金調達
もうひとつ重要なことは、実現可能な移行シナリオであってもアクションを実施するにはコストが発生することです。例えば、電気自動車を普及させるためには購入補助金制度、充電スタンドの設置といったコストが発生します。しかし、コストと削減効果だけで施策を評価することは難しく、また全体として限られた予算をどのように配分するかも難しい問題です。ClimateOSでは、CO2排出の削減効果だけではなく、付帯効果(コベネフィット)も含めて投資対効果を定量化することで、地域にとっての移行シナリオの経済的インパクトを気候投資計画としてまとめることができます。
例えば、自動車による移動を徒歩もしくは自転車へ移行することで、自転車購入費用と燃料費削減のバランスだけではなく、⾃転⾞利⽤による健康増進に伴う医療費削減や、⼤気汚染や騒⾳問題が改善されることによる健康増進に伴う医療費削減を含めることで、地域全体での付帯効果も含めてシミュレーションすることができます。
気候投資計画(CIP)は、⾃治体の温暖化対策チームと財務部⾨にとって不可⽋な仲介役となるだけではなく、コストと削減効果だけでは従来難しかった民間の金融機関からの資金調達も、付帯効果まで含めて実行計画全体として投資対効果を訴求することでよりスムーズに行えることも期待できます。結果、煩雑な計算から解放されるだけではなく、より定量的な根拠に基づき地域の実施主体、住民、そして金融機関、上位の行政機関も巻き込んで実効性を高めるための検討により多くの時間を割くことができるようになります。
■丁寧な情報発信
最終的な脱炭素型の地域づくりの実⾏計画を、地域の事業者と住⺠にデジタルロードマップとしてビジュアルでわかりやすくWeb上で情報発信することで、地域の事業者‧住⺠の⾏動変容を促します。
■反応について
ブースへの来場者の方々に対してデモを交えながら紹介を行いましたが、「デジタルツインモデルを活用することで煩雑な計算から解放されることも助かるが、エビデンスベースによりさまざまなステークホルダーと連携しながら実現可能性がより高い実行計画を策定できそうだ」とのコメントもいただけ、好評でした。
■今回のエキスポの特徴
今回のエキスポでは、多くのブースを視察することができました。
社会課題に対して都市あるいは地方自治体が市民と一体となって取り組むことと、単体ではなく都市間連携で協働するというビジョンが、今回のエキスポでもさまざまなサービスとして注目されているとの印象を受けました。もちろん個別の事業者による出展も見られましたが、それ以上に自治体、国、そしてEUといった行政が主体的にパビリオンを設置、その中でショーケースという形で関係事業者の技術やニーズのマッチングを促進したり、大きな都市だけではなく中小の都市がお互いの取り組みを発表することで切磋琢磨していこうという機運を感じました。
■EU版脱炭素先行地域
欧州連合(EU)加盟国の100都市と関連国の12都市が、EUミッション「2030 カーボンニュートラル・スマートシティを100都市実現」プロジェクトについても情報を得ることができました。
日本の脱炭素先行地域と同様に先行する都市をハブとして他都市へ波及させていくのが狙いで、2030年を目標年度としています。また、「 カーボンニュートラル・スマートシティ」という事業名となっており、GX(グリーントランスフォーメション)の領域だけではなくスマートシティも視野に、モビリティ X エネルギーへの取り組みに注力しているようです。ClimateOSのユーザ都市も複数採択されているようなので、そういった都市と日本の自治体との情報交換の場を設定したいと考えています。
■データとデジタル技術の活用がデジタルツインと同義とされ、4割がすでに取り組んでいる
「カーボンニュートラルシティの実現に向けたデジタルツインの活用」というパネルディスカッションの冒頭、聴講者へのリアルタイム・アンケート「あなたの都市ではすでにデジタルツインに取り組んでいますか?」という質問に対して、「約4割がすでに取り組んでいる」との集計結果が出たのにはちょっと驚きました。アンケートを行ったモディレータの方も驚かれていましたが、一方、パネリストの一人の方の「データとデジタル技術の戦略的な活用はスマートシティには必須であり、そんなに驚く必要はないのでは。」とのコメントが印象的でした。
また、もう一つの質問「何がデジタルツインの課題ですか?」という質問では、「ガバナンス」と「相互連携」がトップという結果でした。他の講演でもサイロ型の仕事の進め方を見直し、連携して課題解決に取り組んだことが成果に繋がったとの話もあり、データやデジタル技術を活用することは必要条件ではあるが、地域の主体者・利用者の協働、そして統制が十分条件ということを改めて実感しました。
■今後の取り組みに向けて
今回、北欧初のサービスをわざわざ欧州のエキスポで出展するのはどうかなとも思いましたが、今回、社会課題に対して住民自らが行動を起こすと同時に協働するための意気込みとそういったサービスが注目されていることを肌で感じることができました。今後、本サービスと日本の良さを生かした付加価値と連携させていくことが、日本のお客様だけではなくグローバルでもメリットがあると確信できたことが一番の成果だと考えています。
該当ソリューション
本事例で活用されているソリューションをご紹介します。あわせてご覧ください。